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こんにちは。土佐しらす食堂二万匹の店主の岩本梨沙です。お店に来てくださるお客さんにはリサリサと呼ばれています。
この度は土佐しらす食堂二万匹のECサイトにお越し下さりありがとうございます。このABOUTページ、なにやら文字だらけで驚かれているところかと思いますが、しらす二万匹自慢のしらすのことやオイル漬けや店のこと、私のしらす愛について、店名になぞらえて二万文字で語らせていただきます!
「土佐しらす食堂二万匹」は、その名の通り土佐、高知のしらすをたくさんたくさん食べていただくお店です。お店に立ってお客さんと話すのが大好きで、故郷高知が大好きで、しらすが大好きな私が、自分の大好きなことを集めたのがこの店です。お酒も野菜も高知のおいしいものを揃えています。
店は六本木にあります。東京ミッドタウンや国立新美術館からすぐ、大通りを一本入ったところに、広さ10坪、ぎゅうぎゅうに座って11人のコの字のカウンターとテーブル席ひとつが私のお店です。
土佐しらす食堂二万匹という店の名前について、「どうして二万匹なの?」と良く聞かれるのですが、どの料理にもしらすをたっぷり使っていて、心ゆくまでしらすが食べられることを店名でも伝えたかったのと、私自身がしらすが大好きすぎてしらすに埋もれたい! 埋もれるならどのくらいだろう、二万匹くらいかな?と妄想して「二万匹」になりました。でも名前を決めた後に分かったのですが、二万匹ってだいたい1kgくらいみたいです。それじゃ埋もれるのには全然足りないですね。でも二万匹って言葉は夢があっていいなと思ったのでそのまま使っているし、とても気に入っています。
みなさんにお届けする「しらすのオイル漬け」は、店で評判のメニューや、食べてもらいたい素材を組み合わせた瓶詰めです。本当はお店で最高においしいしらす料理を召し上がっていただきたいところですが、なかなかお店まで来られない方や、しらすの奥深い魅力を知っていただく第一歩として、ひとつひとつ手作りで瓶詰めにしてお届けすることにしました。
しらすは高知から直送してもらっています。最高の状態の釜揚げしらすで、白くって小さくってふわふわのしらすたちを見ているだけでうっとりしちゃうんです。しらすは、この白くて小さくてふわふわというのがキーワードなんです。しらすだから白かったり小さかったりするのは当たり前でしょ、と思われるかもしれませんが、実はすごいことなんです。高知のしらすの素晴らしさ、漁場、お世話になっている加工工場さんが合わさって生まれる奇跡ともいえます。このことについてはあとでたっぷり語らせてください。まずはみなさんが召し上がる商品についてお話ししちゃいます。
しらすのオイル漬け
「しらすのオイル漬け」は、釜揚げしらすをオイル漬けしたものです。オイルはオリーブオイルだったり米油だったり、商品によって変わります。
スーパーで売られているしらすは数日しか持ちませんが、二万匹のしらすは無菌状態のしらすなので1週間くらいはおいしく食べることが出来ます。さらにご自宅に保管していただけるように、漬けたオイルごと、低温でゆっくりと火入れをしています。加熱してもふわふわの状態が保てるよう見極めながら調理して、1か月おいしく食べていただけるようにしました。私は身体に質のいい油は積極的に取り入れていいと思っているので、オイル漬けのオイルも、オリーブオイル、米油、白ごま油など、おいしいものをたっぷり使っています。
「プレーン」
一番シンプルなプレーンは、とことん潔くオリーブオイルとしらすだけ。うちのしらすを知っていただくには、まずはそのまま食べてください。そのまま味わったあとには、お好みでパンやパスタに合わせたり、ご飯との相性も間違いなしです。玉子焼きにかけて食べるのも大好きです。
「たらことしらすのアヒージョ」
北海道のたらこと高知のしらす。南北の魚卵と稚魚の揃い踏みです。通常のアヒージョはアンチョビを入れますが、代わりにしらすを入れたらそれはそれは絶品で、店でも開業当初からお出ししている定番メニューになりました。毎回必ず食べてくれる常連さんもたくさんいらっしゃいます。しらすの味が染み込んだオイルをたっぷりパンに吸わせて、そこにしらすをドサッとのせて食べる。そのときのお客さんの「幸せ~~」っていう表情を見るのが大好きです。ぜひ瓶を開けるときにはパンをお忘れなく!カリっと焼いたバゲットがおすすめです。
「大葉と玉葱」
醤油ベースの自家製ドレッシングに、刻んだ大葉と玉葱、そしてしらすたっぷり。ドレッシングもしらすを入れて作るので、しらすの旨味が全方位からしっかりじっくりじわーっと口の中で染み込んでいきます。濃厚な旨味と、あとからやってくるお酢の風味で後味はさっぱり爽やかに召し上がっていただけます。ドレッシングとしてかけるとサラダが一気に主役に躍り出ますよ
「茗荷とらっきょうの甘酢オイル」
茗荷とらっきょうをそれぞれ刻んで漬け込んだあとに、しらすと一緒に米油漬けしています。野菜たちに味をつけているので、全体に味が行き渡りながらも、しらすの風味はそのまま。香りや食感を楽しみながら食べられます。しらす以外の食材もできるだけ高知のものを使いたいので、旬の時期には高知の茗荷で作ります。甘酢のしっとりとしたおいしさに、ポン酢の柑橘風味が加わって、おかずとしてもりもり食べていただきたいです。
「タイカレー風」
しらすって世界中で食べられているけど、アジアの人たちはきっとスパイスたっぷりで食べるんだろうなと想像したのがはじまりです。カレー粉にココナッツクリーム、パクチー、ナンプラーで作ったオイルソースにしらすを加えたら、めちゃうまでびっくり。ほんとに驚いたんですが、考えてみたらナンプラーの原料はカタクチイワシ。つまりしらすが成長してイワシになるわけだから合わないはずがないですね。しらすやイワシは世界の食卓を作ってるなぁと誇らしくなりました。レモンを絞り入れてキリリとお召し上がりいただけるようにしました。
「チーズとトマト」
わたしは“ピザ”って呼んでます。ドライトマトとキューブ状のチーズを入れて、ハラペーニョ、そしてイタリアの魚醤のガラムを入れて作っていますが、ガラムも原料はイワシです。イワシって本当に偉大ですね。クラッカーにのせて食べたり、ワインにも合います。新鮮なバジルの葉があればさらにイタリアの風が吹きます!「イタリア!ボーノ!」って言いたくなりますよ。
「あおのり」
高知はあおのりの産地としても有名です。高知は水の透明度が高く澄んでいて、晴れの日も多く太陽の光がたっぷり届くので、のりも香りが豊かで色も鮮やか。そこにたっぷりしらすが入っている様子は、高知のアクアリウムみたいだなーっていつも眺めちゃいます。じゃがいもはあらかじめオイルでコンフィにしているので、煮崩れしないでほくほくと食べられます。一番のおすすめの食べ方は佃煮みたいにそのままご飯に。あったかいご飯に乗せたときに広がる香りがたまりません。
ほかにも新しい商品も作っていきたいし、もしかするとおやすみや廃盤にする商品もあるかもしれません。店の営業の合間に作っていくので、サイトに載ってない、とか、載っているのにずっと売っていない、なんてこともあるかもしれません。きっとあるだろうなーと思うので、先にお伝えしちゃいます。おいしいしらす料理を作ることを第一にがんばるので、応援してください!(オンラインストアは最新の状態にします!)
「しらすのオイル漬け」の味は伝わりましたか?私の説明よりも、とにかくまずは食べてみてくださいね。このあとは私やしらすについて、もう少しお喋りにお付き合いください。
生しらす、釜揚げしらす、ちりめんじゃこ
土佐しらす食堂二万匹で使用しているのは、高知・安芸で水揚げされたしらすをふわっふわの釜揚げしらすにしたもの。加工場さんから直送してもらっています。釜揚げってご存知ですか?しらすといってもみなさん持たれるイメージが違うと思うので、しらすについて少し説明させてください。難しいなー、という方は、おすすめのレシピまでびゅんっと読み飛ばしてくださいね。
「しらす」って、さまざまな魚の稚魚の総称なんです。鮎やウナギ、イワシ、ニシン、イカナゴなどの稚魚が、みんな「しらす」。そのなかでもわたしたちが「ザ・しらす」として思い浮かべる小さくて白い軍団や佃煮、ちりめんじゃことして世の中に愛されるしらすは、イワシの稚魚です。成長するとカタクチイワシ、ウルメイワシ、マイワシの3種類になります。店で作っている手ぬぐいにもこの三匹がいるんです。それぞれよくみると大きさや顔つきが違いますねー。しばし愛くるしい魚たちをどうぞご覧ください。
しらすは、加工方法によって見た目も呼び方も変わります。水揚げされた生の状態が生しらす。高知では「どろめ」という愛称です。それを釜で炊きあげたものが釜揚げしらす。「しらすのオイル漬け」や店で使っているのはふわっふわの白い釜揚げしらすです。生の時に透明でどろっとしていたしらすは、炊きあがると白くなります。そこに風を当てたり天日干しで乾燥させるとしらす干し、さらに乾燥させるとちりめんじゃこになっていきます。
ここでひとつ、私は世の中の誤解を解きたいと思っていることがあるんです。「しらすは白いものほどいい」っていう印象が一部であるんですが、決してそうじゃないんです。色はイワシの種類によるし、水揚げされる場所や成長の具合、環境によっても変わってきます。
でも、「白い方がいい」みたいなイメージがあるので純白ではないしらすは売りにくかったり、値が付きにくく、加工の際に漂白されてしまうことまであるらしいんです。人にも個性があるように、しらすもそれぞれ。実際にウルメイワシのしらすはほかよりもほんの少し黄色がかっているのですが、味は絶品。それなのに「ウルメは買わないよ」なんて扱いを受けることも。だから私はこの状態を変えたい!!食べる側がちゃんと選んでいけば、ウルメイワシもしらすももっと報われると思っていて、このことを伝えていくのがわたしの大きな使命のひとつだと思っています!
しらすは、地域によって大きさの好みも異なります。例えば佃煮屋さんの多い京都では、ちりめん山椒などに適した1~1.5cm程度のとっても小さいしらすが好まれ、ちりめんじゃこの状態まで加工されます。安芸のしらすは2cmほどの状態の良いものをふわふわの釜揚げにする高級品に分類されるものが多いです。
ちいさい身体でヒーロー食材、しらす
しらすは栄養たっぷりの魚です。カルシウムやDHAなどを想像しますよね。おいしいだけじゃなくて栄養面や健康を支える食材としてもとっても優秀な子なのです。
まずはカルシウム。歯や骨の形成に必要な栄養成分ですね。牛乳飲まないと背が伸びないよ、残さず飲みなさい、って言われた記憶がある人いますよね?それでも牛乳が苦手な子には「しらすがあるよ!」って言ってあげたい!しらすにたくさん含まれているビタミンDにはカルシウムの吸収を助ける効果があって、一緒に食べることによって丈夫な歯や骨を作り出せるんです。ご年配の方の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防にもしらすを食べるのがいいですよ。
それから、肝機能の働きを高めるタウリンやカリウム、鉄、亜鉛も豊富です。飲みすぎちゃったときや寝不足や頑張りたいときに、ファイトを一発したり翼を授けてもらうのもいいですが、ぜひしらすを食べてください。とくに二万匹のしらすは塩分控えめ、スーパーに並ぶ通常のしらすの約半分なので、塩分が気になる方にも優しいです。
ほかにも、肌から分泌される皮脂量をコントロールする働きがある核酸やコエンザイムQ10も含まれているので、しらすを上手に食べることで美肌にもきっと効果があると信じてしらすを美容の拠り所にしています。
つまり、しらすは赤ちゃんからお年寄りまで身体を作る栄養としても優秀だし、忙しく働く人や健康が気になる人、美しさを保とうと頑張る人みんなのためになる。小さい身体でみんなを助ける、しらすは最強のヒーロー食材だ!と自信をもってオススメしちゃいます。
しらすの栄養をさらにさらに存分に摂取したいときには、食べ合わせてみてほしい食材があります。オススメをふたつご紹介。ひとつはポン酢です。お酢はしらすに含まれるカルシウムの吸収をさらにさらにサポートしてくれるそうです。しらす丼にお醤油も美味ですが、ポン酢をたらっとさせるのも、考えただけでおいしいですね。
ふたつ目はナッツ。ビタミンEが豊富なアーモンドやクルミなどをしらすにあえるとビタミンの吸収が良くなるので、ちりめんじゃこにクルミが入っているのは理にかなっているんです。
さらにさらに、私がひそかにそして熱く着目しているのが、アスリート食としてのしらすです!しらすはタンパク質がたくさん含まれていて、さらに低カロリー。つまりサラダチキン級、いやそれ以上とも言えるすごいやつなんです。粉末やバーのプロテインを召し上がるアスリートの方も多いですが、私はそれをぜひしらすに変えてもらいたいなと思ってます。今後の夢は、アスリートやボディビルダーなど、身体づくりにストイックに向き合う人の横にかならずしらすあり!という存在になること。頑張る人を支えるポジションになったらいいなと思っています。
人気メニューやしらすのレシピ
しらすのレシピというと、ご飯にのせるのが大定番ですが、しらすは旨味たっぷりの万能食材。土佐しらす食堂二万匹もすべてのメニューにしらすを使うのをルールにしています。
たとえば「人参としらすのラペ」。野菜だけのラぺやサラダにしらすをあえると、オイルだけよりもさらにコクが増します。肉料理に合わせるのもおすすめです。特に相性がいいのは豚肉で、店では塊肉と一緒に煮込んだ「豚肩肉のしらすハーブ煮込み」などを作ってきました。動物性の旨味と魚介の旨味の相乗効果で何倍も深い味わいやコクが出るようになるので、料理の腕がワンランクアップした気持ちになれます。
夏場に人気なのがさっぱりとした「夏野菜としらすの揚げびたし」。冬は「しらす出汁のおでん」。それぞれしらすの旨味が出汁に溶け込むし、しらすは出汁をすってさらにジューシーになるので、ご自宅でもぜひ試してみてください。
しらすは旨味の塊なので、出汁側に回ってもいい仕事をするんです。しらすは煮干しやいりこと同じイワシの稚魚なので、おいしいのはアタリマエ。さらにアクの少ないやさしくて上品な味わいが魅力です。
おすすめは、溶いた玉子にしらすからとった出汁をたっぷり加えてふんわり焼き上げた出汁巻き玉子です。店では「出汁巻きしらす」として、玉子の上にさらにしらすをたっぷりのせてお出ししています。ジューシーな味わいが口の中いっぱいに広がりますよ。
それから、おいしい釜揚げしらすで必ずやってみたいのがおうちでしらす丼!ですよね。しらす丼にはお醤油がとっても合いますが、店で出している不動の一番人気「禁断のしらすバター丼」は、しらすから出汁をとった特製秘伝ダレで召し上がっていただいています。釜揚げしらすを炊いたときに出る極上の出汁で作る秘伝ダレのおいしさといったら、、、。このタレを買いたい!ってお声も多いので、オンラインでも販売できないかチャレンジしているところです。秘伝ダレをいつか販売したい!それまでの間、ご自宅で試せるレシピもあるので、ぜひ作ってみてください。
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■しらす特製ダレのレシピ
釜揚げしらす 30g
薄口しょうゆ 20ml
みりん 20ml
日本酒30ml
水30ml
まず釜揚げしらすとみりん、日本酒、水を煮ていきます。沸騰したら弱火にし、アルコールの香りが磯の香りに変わったら火を止め、薄口しょうゆを加えれば完成です。
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タレはしらす丼だけではなくて、厚揚げや納豆などたくさんの食材に合うので試してみてくださいね。日持ちはしないので、食べる分だけ作ってみてください。
しらすのふるさと、高知県安芸市
土佐しらす食堂二万匹のしらすは、高知県安芸市の安芸漁港で水揚げされています。
安芸市は、四国・高知県南は土佐湾に面し、北は四国山地を背にする美しい自然に囲まれた高知県東部ののどかな都市です。
高知と言えば、空港の名前にもなっているように坂本龍馬ゆかりの土地です。安芸は高知市から車で東へ1時間ほどの、土佐湾に面した町です。阪神タイガースのキャンプ地としてピンとくる人もいるかもしれませんね。安芸の海岸線から台地が続き、しばらく行くと四国山地に入ります。住宅地には黒瓦や漆喰、焼杉の壁などの家々が連なり、昔から水産業や貿易業を営んできた面影が残っています。港町の風情と山の景色、そして綺麗な水が流れる川がある落ち着いた町並みで、いつも穏やかな時間が流れています。
安芸の漁港は、体育館ほどの大きさの競り場のコンパクトな漁港です。繁忙期は水揚げされたしらすがところ狭しと並びますが、普段はここが日本有数のしらす漁港と聞いて驚くくらい、静かでこじんまりとした場所です。
安芸をはじめ、このあたり一帯の特産物はもちろんしらす。春先には旬の釜揚げしらす丼を食べようと、しらすファンが高知に集まります。
安芸市から海岸沿いに西へ数十分の隣町香南市で毎年ゴールデンウィーク頃に行われている「どろめ祭り」は全国的にも有名です。どろめとは、イワシなどの稚魚のこと。つまり生しらすを意味します。もともとはどろめの大漁を願うお祭りですが、今日では「大杯飲み干し大会」として名高いこのどろめ祭り。男性一升、女性五合の地酒を豪快に飲み干してスピードと飲みっぷりを競う、かーなり危険なお祭りです。現在しらす漁の旬は3月頃までですが、4月後半にどろめ祭りがおこなわれているところをみると、昔はこの時期まで水揚げがたくさんあったことが想像できて、変わりゆく気候を実感します。
高知の中でも特に安芸沖はしらすの好漁場となっています。しらす漁と、それをちりめんじゃこなどに加工するしらす加工業で近代は発展してきました。安芸漁港の水揚高の半数以上を占めるのがしらすで、ほかにはかつおやまぐろの水揚げが多いのに、市の魚は残念ながら「あゆ」!なんと川魚なのです。
しらす漁は3隻でワンチーム
安芸のしらす漁は3隻でワンチーム、船ひき網で行われます。船が網を引いて、その網の中にしらすを捕まえていく方法です。2隻の船がひとつの網を携えて連なって漁に出て、しらすがいる場所に到着すると群れを囲むように網を広げて平行に進みながら漁をしていくのを想像してください。ちなみにこの網が“バッチ”に似ているので、船ひき網漁のことを高知では“バッチ漁”と呼んでいます。バッチとは、、、足首まであるももひきのこと。ネーミングセンス抜群ですね!
漁師さんたちは朝日が昇る前に港を出発して、しらすがいる場所まで向かうそうです。レーダーや探知機を使ってその日のしらすポイントを探し、群れを確認すると2隻のバッチ船は離れて網を広げます。
順調にしらすが網に入りだしたら、網のロープを引きはじめ、しらすの入った袋網を引き揚げて氷で冷やして劣化を防ぎます。2隻とは別にもう1隻運搬船がいて、水揚げしたそばから市場に運び、順番に競りにかけていくそうです。しらすは獲ったそばからすぐ傷んでいくので鮮度が命。3隻1チーム、3名の連携が大事です。代々親子で漁をされているご家族が多く、安芸港のしらす漁師は24軒。60代でもまだまだ若手で30代は数名しかいないそうです。ひとつの漁港でこれだけの数のしらす漁師さんがいるのは全国でも珍しいそうですが、それでも高齢化と跡継ぎがいなくての廃業がじわじわと進んでいるそうです。
ふわふわのしらすの立役者、カワクボファクトリーの情熱
漁師さんが獲ったしらすを釜揚げしらすにしているのが、安芸のカワクボファクトリーさん。私の遠い親戚です。土佐しらす食堂二万匹のふわっふわの釜揚げしらすは、カワクボファクトリーさんなしではありえません。漁港での買い付けなどを担当している高橋さんにお話を聞いたので、インタビュー形式でカワクボファクトリーさんのこだわりや安芸についてお伝えします。
二万匹
二万匹店主岩本(以下:二万匹)
カワクボさんはもともとは機械の製造メーカーだったんですよね?
カワクボ
カワクボファクトリー高橋さん(以下:カワクボ)
1950年に機械の製造メーカー、鉄工所としてはじまりました。しらすの買い付けや加工・販売を始めたのはまだ最近のことです。
二万匹
機械屋さんが実際にしらすを加工するって、なかなか大きな方向転換ですよね
カワクボ
僕らも、機械は作るけれど、それで本当においしいしらすが作れるのかはわからなかった。お客さんに機械を買ってもらって試してもらわないと良し悪しが分からなかったので、それなら自分たちで作るところまでやっておすすめしたいなと思ったんです。
それから、高知のしらす産業の衰退をなんとかしたいと思ったのもあります。漁師の数はここ30年で半分くらいに減っている。市場に送るだけだと安く買い叩かれることも多いので、出来ることなら直接スーパーなどに卸したい。そのために自分たちで責任をもっておいしくて品質の高いものをブランド化して直接届けようと決めたんです。中間にほかの会社を挟まないことで、僕らも生の原料を漁師さんから少しでも高く買うことができる。そうすれば漁師さんも息子に後を継がせよう、ということになって衰退を止めることになるんです。
二万匹
しらす漁船は3隻で1チームで連携も必要だから、跡継ぎがいないと続けられないんですね。
カワクボ
そう。それから、食の安心安全に向き合いたいという思いもあります。市場に出ているしらすの中には、白さをだすために漂白されているものもあるのは前に梨沙さんにも話しましたよね。それだけではなくて、しらすは水揚げされたときには海のいろいろな微生物がくっついていて衛生面はかなり良くない。菌まみれの状態で傷みも早い。だから保存料などを添加するのは避けられなかった。ほかにも、釜で炊き上げるときに出る蒸気や乾燥させるときの環境で菌が発生したり害虫が混入しやすかったり。とにかくデリケートな食材なんです。だから僕らは水揚げされたしらすを、すぐに洗浄・乾燥・冷却するなど機械にさまざまな改良をしながら、余計なものを極力使わずに、菌をゼロに近づけるようにしてきました。
二万匹
カワクボ
国の基準では菌100,000個までは食品として認められているのですが、やはり菌数が多いと保存料が必要になる。しらすは気を抜くと菌がどんどん増えるし。それでも子どもにも安心して食べさせられるものを作りたかったんです。大学の教授と共同で開発を進めて、15年かけて製法の特許を取得しました。
二万匹
カワクボ
データを揃えていったり、季節や地域の条件を検査機関とやりとりしていたら15年があっという間に立ってしまいました。
二万匹
その特許製法のおかげで、おいしくて安心して食べられる、ふわっふわなしらすが出来上がったんですね!
カワクボ
そうなんです。水揚げされた魚体は雑菌も多いので殺菌やぬめりとりが欠かせません。水揚げしてからのスピードと鮮度が何より大事。だから漁港のすぐそばに工場を作って、買い付け後すぐに洗浄します。洗浄時に余分な脂質も分解されるので味もよくなる。釜では高温煮沸して、余分なたんぱく質を取り除きます。スピードと僕らの機械屋としての技術が掛け合わさって、おいしくてぷりっとした甘みのあるしらすが出来るんです。
僕が一番好きなのは、釜からあがりたての釜揚げしらす。出来立てでまだほわほわ湯気が上がっている温かい状態は香りも抜群で最高においしいです。これは本当に工場でしか味わえないから、釜揚げ工場の醍醐味です。
二万匹
カワクボ
しらすが一番獲れる時期は秋の終わりから4月にかけてだから、その頃に来てください。1日3~4tくらい製造してますよ。ちなみに全国は4月頃から年末までがしらすの旬で、高知だけ逆なんです。
二万匹
カワクボ
そう、しらすの魚種が違います。高知で獲れるのはウルメイワシやマイワシの稚魚が多いんです。そのほかの地域は全国どこも4月から年末までが旬のカタクチイワシが多い。高知でウルメが獲れることが珍しくて、全国でも貴重なしらす漁場なんです。
二万匹
たしかに、しらすといえばカタクチイワシが一般的ですよね。
カワクボ
ウルメイワシは脂がのっているので他のしらすと並べると黄色く見えます。脂がのっているからおいしいんですが、食品で黄色って言うと悪くなっている、腐りかけの色のイメージがあるでしょ。だから市場で好まれないし、価値が低いものとされてきたんです。
一般の人は真っ白のしらすをイメージするので、黄色っぽいしらすは「汚い?くすんでる?古いやつ?」という印象になってしまうので、買う業者もなかなか高値を付けてくれなかった。しかも脂がのっている分、傷みも早いんです。カタクチイワシは白くてぷりっとしていて魚体も比較的傷みにくいので、それしか買わないっていう業者さんもいるくらい。
二万匹
ウルメイワシのしらすはとってもおいしいのに。やっぱりわたし、「しらすは白」っていう世間のイメージを変えます!
カワクボ
それでも、安芸のしらすのおいしさは際立ってますよ。安芸沖に有名な産卵場所があって、そこで生まれた稚魚がすぐ安芸のほうに入ってくるので、2㎝くらいの『小すじ』と呼ばれる小さくていい状態のものが多いし、大きな川が2本流れているからプランクトンが豊富な甘い水もあるので、しらすには最高の環境です。それが瀬戸内のほうに入りながら成長してどんどん太く大きくなる。しらすの成長は早いですよ。
2~3日経つとたけのこみたいな勢いで大きくなってあっという間に5㎝を越えるくらいになって、おじゃことしては扱えない大きさになる。だから旬の時期は毎日漁に出るし、僕らも毎日買い付けをしにいきます。
二万匹
そういえば店でお客さんに、「おじゃこ」って呼ぶのがかわいいね、って言われたことがあります。
カワクボ
おじゃこ、そうですか?僕らはいつもおじゃこって言うんですが、地方の呼び方なんですかね。
二万匹
私も含めて、高知ではみんなあたりまえにおじゃこって言いますけど、全国だと違うみたいです。
『じゃこ』じゃなくて、『おじゃこ』と呼ぶのに愛着を感じます、と言われました。
カワクボ
僕ら『じゃこ』って言えないんです。なんとなく、とがった生意気な感じに聞こえませんか、じゃこって。雑な魚と書いてじゃこだし。
自分たちはしらすによって生かされていると思っているので、感謝と尊敬の意味も込めて『おじゃこ』って呼んでいます。
二万匹
たしかに、おじゃこ愛は共通ですね。高橋さんはおじゃこの買い付けを担当されてるんですよね。
カワクボ
はい。カワクボファクトリーが買い付けを始めたのが5年ほど前で、そのときは社長ひとりでした。その後に僕も一緒に行くようになりましたが、最初は全然ダメでしたね。
魚の目利きに関しては純粋に素人だったので最初の1~2週間は、並んでいるのが何の魚か分からない。安芸はアユもたくさん獲れますが、まずアユの子どもとイワシの子どもの見分けがつかない。名前も書いていないところに、買い付けに来た人たちがぱーっと集まってきてどんどん札をいれていく。僕は見た目でどれがおいしいかも分からなかった。原料の生の状態と炊きあがりは色も違うので、これを炊いたらどうなるんだろうっていう感覚的なところもピンとこない。
とにかくまず買ってみて、炊いてみて、失敗して、の繰り返しでした。
二万匹
カワクボ
そうです。見るのといざ炊いてみるのでは全然違う。小エビやカニのいわゆる「まじりもの」も、見た目には分からないのに買ってみたらうじゃうじゃいたり。もう失敗の連続です。1年くらいでいいものが見分けられるようになりましたが、それでも価格の面での勘所が難しい。高値を入れれば競り落とせるけど、それじゃ会社の利益にはならないから継続的ではない。自分は2年かかってようやく、目利きと競りの両方がつかめてきて「あ、やれるな」と思いました。その頃から、周りの買い付けの人たちも札入れのときに「やられた」って悔しい顔をしだす。それでようやく人並みになったと思いました。
二万匹
カワクボ
船が出るときは毎日漁港に行きます。船が帰ってくるたびに状態を見極めて、札を入れて買い付けます。安芸のしらすは全国でも随一の品質と評判なので、自社でブランドにして直販したり量販店に納めている会社もほかに数社あって、ライバルの多い漁港です。
二万匹
レベルの高い漁港だと漁師さんたちも漁のし甲斐がありますね。
カワクボ
漁師は職人ですからね。とにかく我が強い。しょっちゅう大声でけんかしてますよ(笑)。みな同じ漁場をなわばりに持つライバルだから、仲良しこよしの雰囲気はなくて、我先に自分がいいおじゃこを獲りたいって気持ちですから。しらすは鮮度が命だと言いましたが、もっと言うと漁師さんのクオリティがほぼ全て。上手にとる人は本当に上手だし、イマイチな人は、ね(笑)
二万匹
漁師さんのクオリティって、何がそんなに違うんでしょう
カワクボ
まじりものがなくて、大きさの揃ったきれいな状態のおじゃこだったり、鮮度保持が上手なところですね。しらすはとにかく足が早い。成魚になると魚へんに弱いと書いて鰯(イワシ)ですから、名のとおりどんどん傷んでいくんです。傷ませないためには、まず網を引きすぎないこと。網に入ったあとも水流で圧迫されているのでそれだけでしらすは傷むし、2~3時間引き続けていると死後硬直もある。獲れる量とのバランスを見ながら、引きすぎないところが一番のコツです。そして水揚げしたら船上でもすぐに氷で冷やすこと。グダグダの生しらすは炊いたときにパサパサになるのでよくないんです。
二万匹
カワクボファクトリーさんの目利きと、漁師さんの技術の両方でふわふわのしらすが出来ているんですね。
カワクボ
僕らの夢は、いつか安芸でしらす漁船を持ちたいと思ってるんです。自分たちが考える理想の時間に合わせて網を引いて、最高の状態のおじゃこを獲りたい。引く時間が短いと獲れる量も少なくなりますが、ピチピチ生きている状態で、より鮮度のいいツルっとしたものがとれる。氷の打ち方にしてもこだわりぬくことができるでしょ。もともと安芸の漁船では氷打ちはしていなかったんです。僕ら買う側が漁師さんたちを口説きながら氷打ちをお願いしていった。もっともっといい状態の商品を作るために漁船を持つのが一番かなと思っています。
二万匹
カワクボファクトリーさんのお話はいつ聞いてもアツいです!
カワクボ
僕らは本当においしいおじゃこを届けたいんです。子どもらにも安心して食べさせたいですから。誰がどう作ったか全ての工程が分かるようにする。もちろん手間も時間もかかるけれど、ブランドをつくるってそういうこと全部に向き合う覚悟だと思うんです。
特に釜揚げしらすは水分が多い分、腐りやすく日持ちがしない。だから保存料に頼ったり、質の悪いものもまだまだたくさん出回っています。カワクボファクトリーは直販をしているので、最短次の日に東京でも食べることができる。普通の流通だと凍らせて輸送しますが、僕らはフレッシュな状態で運ぶので、食感も全然違うんです。梨沙さんのところにお送りしているしらすも、フレッシュな最高の状態のものだけ送ってます。
二万匹
わー、ありがとうございます。お客さんも「こんなにおいしいしらすは初めて食べた!」って皆さん喜んでくれるんです。
カワクボ
鮮度のいいものを素早く加工して、売り先の分かるところに販売しているので、余計なものを使わなくていいんです。添加物もそうですが、塩分も通常の加工過程の約半分。だから炊いたときの釜の煮汁がおいしい出汁になって、赤ちゃんでもそれをそのまま飲むことが出来るくらい。それが自慢です。従業員も家でしらすの出汁を料理に使ってますよ。お鍋でそのまま使ったりおでんの出汁とか、茶碗蒸しにすると絶品ですね。
二万匹
店にも送ってくださってありがとうございます。あの出汁も大好評で出汁の販売もぜひしたいです。まずはオイル漬けの商品を作りましたが、カワクボファクトリーさんでこんな商品があったらいいな、なんてリクエストとかありますか?
カワクボ
梨沙さんの店の味が瓶詰めになるなら、どれも楽しみです。瓶詰めで楽しんでもらって、釜揚げしらすも食べたくなって、梨沙さんの店に行ってもらったり、ぼくらの商品も食べてもらったりしたら嬉しいですね。
魚の世界へのいざない
さらにさらに、魚の世界へみなさんをお連れしちゃいます。このやたらと長いしらすへの情熱テキストをここまで読んでくださって、ありがとうございます。すっかりしらすの魅力にハマっちゃいましたよね。
そもそもしらすとは?さらにさかのぼって魚とは?いろいろ奥深くまで知りたくなっているはず、と信じて、かなりマニアックなお話もしちゃいますね。
愛すべき「しらす」が、イワシの稚魚だけじゃなく、いろんな魚種の稚魚もまとめて「しらす」と呼ばれるというのは前半でお話しましたね。まとめすぎやろ!ってわたしもひとりツッコミを入れたくなります。思えば、魚って英語でfish、複数系でもfishです。フィッシュズとは言いません。群れても何種類いてもひとまとめでフィッシュ。しらすも何匹でも何種類の魚種でも、ひとまとめのさらにひとまとめで「しらす」。なんだかいじらしくてもっと応援したくなりませんか。
ひとまとめで「魚」と呼ばれてしまう魚たちですが、魚類は実にビッグファミリー。一口に魚と言っても、それはもう千差万別、多種多様な魚がいて、世界に2万種とも3万種ともいわれています。データベース“Fish Base”※https://www.fishbase.se/search.phpには、2021年4月時点で34,600種の魚が登録されています。(Fish Base は魚好きならいつまでも飽きずに見られますよ。) この34,600種という数は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類を合計したよりも多いのです。
しらすが成長し、成魚になったイワシは約300種類。いちばん漁獲量の多いカタクチイワシは世界に150種類ほどです。カタクチイワシは約6,000~40,000、マイワシで約40,000~120,000の卵を産むと推定されていて、成魚になるには1年〜3年ほどかかり、その生存率は0.1%~1%以下と言われています。(ちなみに多産で知られるマンボウは3億の卵を産み、生存率はさらに低い数匹程度という説もあります!)
このイワシの生存率の低さが、稚魚のしらす時期の乱獲に原因があるという主張もあって、店でわたしもたまに聞かれますが、イワシはそもそも、その他の魚類やイカやイルカなどの魚食性動物の餌となる魚で、それは人間が漁獲する量よりも非常に莫大です。いわゆる「食物連鎖」のかなり下の方にいるのがしらすやイワシで、それよりも大きな鰹やまぐろに捕食され、鰹やまぐろは鯨に捕食される。その自然の摂理と比べると、水揚げされるしらすの量はまるで及びません。だから、しらすはたくさん食べても大丈夫!という理由で、土佐しらす食堂二万匹でも、しらすを山盛り盛りで、たーっぷり召し上がっていただいています。
しらすの量が減っているとすれば、気候変化による海温上昇などで生育流域が変わることのほうが、漁獲量に大きく影響しているといわれています。昔は漁獲量が少なかった東北地方で、近年しらすの水揚げが増えています。もし将来安芸でしらすが獲れなくなったら、、、身近に考える対象があると環境問題に対する自分の向き合い方も変わります。
しらす三兄弟
カタクチイワシ、マイワシ、ウルメイワシ。このしらす三兄弟、それぞれ個性的なキャラクター揃いなんです。3種類の中で1番たくさん穫れるのがカタクチイワシです。全長15センチくらいで、カタクチイワシ科に属します。カタクチという名前はこの子たちの顔つきから名付けられたんです。もう一回手ぬぐいを見てみてください。ぱくっと口をあけると、上あごの方がかなり長いんです。だから「カタクチ」と命名されました。アンバランスでポケッとしたおとぼけフェイスがなんとも愛らしいしらすです。カタクチイワシは「セグロイワシ」とも呼ばれていますが、なぜか分かりますか?そうです、背中のてっぺんの濃紺色が特徴的なのでセグロです。このカタクチイワシは日本のいろいろな地方で穫れるので、ほかにも地方独自の呼び方があります。ヒシコイワシ、シコイワシ、シコ、ゴマメ、タヅクリ、ママゴ、ドロイワシ、エタレ、コシナガ、チイカ、カエリ、カクハリ、マル、コシナガ、クロタレ、タレクチ、チリメンなどなど。イワシは水揚げ後の足が早い(悪くなるのがはやい)ので、昔は住んでいる地域で獲ったものだけを食べていたはず。こんなにも呼び名があるのは、日本全国で日常の魚として昔から愛されている証拠ですね。
お次はマイワシです。ぽってりとした見た目で、成魚になると25センチくらいまで成長します。マイワシはニシン科です。この子にも見た目で呼び名がついていて、体に並んでいる黒々とした点から「ナナツボシ」。マイワシはたくさん集まって群れになって泳ぎます。水族館で大群でゆうゆうと泳いでいるマイワシを見るととても癒されちゃいます。マイワシの体脂肪率は状態のいいもので30%を超えるものもあります。
最後はウルメイワシ。もうお分かりですね。この子は目が大きくてうるうるしているので「ウルメイワシ」です。覚えやすいですね。しらすの成魚の中では一番大きく、成長すると30センチを越えます。カタクチイワシやマイワシよりも鱗が細かくキラキラしているのでゴージャス感があって、イワシ類のなかで一番旨味が強いです。最高においしいのに、一番損しているのがこのウルメイワシ。痛むのも早いので市場で敬遠されたり、ほかのしらすに比べて黄色っぽい色をしているので「しらすは白」というイメージから悪いもの扱い…。かわいそう…。なので成魚になっても干物にされることが多いです。朝ごはんの定番のめざしはこのウルメイワシを干したものが多いですね。カワクボファクトリーさんもおっしゃっていましたが、安芸では傷みやすいウルメイワシを上手に獲って素早く加工するため、価値の高いしらすを作ることが出来るんです。
この3種類が三大しらすで、「しらす」の名前の由来についてです。稚魚の状態ではまだ体に色素も少なく、みな透明~白色をしているのでしらすと呼ばれているのが一般的ですが、言葉の由来や理由ってだいたい「諸説あり」。しらすにもいろいろな説があります。たとえば、時代劇で見かける白い砂利の敷かれた裁きの場所「お白州」からきているという説。しらすが干してある一面真っ白な状態がお白州に似ていたことから名づけられた、と聞いて、日本人らしい感性だなって思ってきゅんとします。
大きさ2㎝くらい、まだ白色の状態の稚魚「しらす」は、5㎝くらいに大きくなって銀色が強くなってくると「おかずなご」、それよりも成長すると「イワシ」として成魚になります。成長とともに名前が変わる魚を出世魚(しゅっせうお)といいます。江戸時代まで、武士が成人して世の中に出ていく「出世」をするときに名前や着るものを変えていた風習からきているそうですよ。出世魚はほかにもブリ(モジャコ→ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ)などがいます。
世界のしらす
しらすたちは産卵後、潮の流れに沿って泳ぎながら成長していきます。黒潮に乗って秋田など三陸のほうまで群れで泳いでいきます。壮大な旅ですね。もちろん途中でクジラや、より大きな魚に食べられたり、漁によって吊り上げられたりしながら成長し、産卵期になるとまた産卵地へ戻ってきます。
日本の漁場というと高知沖や九州沖、静岡など太平洋沖が有名ですが、しらすは日本だけの魚じゃないんです。タイのナンプラーもカタクチイワシだし、イタリアにもチチニエリというしらすのピザがあります。しらすは世界中たーくさんの場所に生息しています。もちろん日本やアジアが位置する太平洋南東が一番の漁獲量がありますが、世界中、地球の裏側の食事にもしらすやイワシは並んでいます。
ここで世界のしらす料理をいくつかご紹介。まずはニュージーランドの「ホワイトベイト」。しらすオムレツです。しらす漁が解禁になったことを告げる季節感たっぷりのオムレツで、ホワイトベイトはしらすのこと。まだ生きているくらいフレッシュなしらすをそのまま使う、しらすが主役のオムレツで、パンに挟んだりワインのお供でみんなでワイワイとごきげんに食べるそうです。その時期にニュージーランドに行ってみたい!
ほかには、インドネシアのナシリウェット。お米をココナッツミルクやチキンブロス、レモングラスで炊き、そこにしらすを混ぜ込んだり乗せたりします。普段はアンチョビを入れるのですが、炊いたしらすを乗せるのは贅沢の証拠なんだそうです。ほかにも、名もない家庭料理としてしらすは世界各地で食べられています。しらすによって、世界がつながっていることに気付かされちゃいます。
群れる魚が世界を変える
しらすは成長してイワシになっても、大群で泳ぎながら移動します。リーダーもいないのにぶつかることなく泳いでいく数万もの大群を水族館で見て圧倒された人もいますよね。小さくて弱いしらすやイワシにとって、群れは大きいほうがより安全で、まるでその群れ全体がひとつの生き物みたいに動き回るんです。
なぜあんなにも大群で同じ方向に泳げるのかというと、しらすやイワシの体の両側には、小さな穴が一列に並んだ器官があって、その穴を通して水の動きや周りの動きを感じ取る能力があるんだそうです。さらにイワシたちにはDNAに刻まれている3つのルールがあって、それは「①近すぎたら離れる ②離れたら近づく ③相手との距離が一定なら泳ぐ方向をあわせる」。
体の脇のセンサー器官で感じ取りながらこの3つのルールを守ることで、真っ暗な夜の海でもぶつかることなく、群れで悠々と泳いでいくことができるんです。この性質が、最近では人間社会のテクノロジーにも応用されています。なんだと思いますか?
それは「自動車」です!周りの車の状況や道路の流れを感知する自動運転システム開発に、イワシの体側のセンサー器官の仕組みが応用されているそうです。群れるしらすやイワシがテクノロジーを変えていくなんて、ますますしらすの魅力にハマっていきそうです。
出会ってしまって、しらすに決めました
お店を開く前も開いた後も、必ず「なぜしらすの専門店なの?」と聞かれます。
高知出身なのでしらすは昔から日々何気なく食べていましたが、東京に来てから遠い親戚が作っている釜揚げしらすをあらためて食べたときに、衝撃を受けたことがきっかけです。「なんだ、このふわっふわで旨味の強いしらすは!?」って。そこからわたしのしらすストーリーがはじまりました。
もう少し遡ると、もともと銀座のビストロで約10年、店長兼ソムリエとして働いていて、お客さんとお話するのが好きだったし、自分のすすめたワインや料理でみんなが喜んでくれたり、たまたま隣同士だった人が仲良くなったりする空間が大好きでした。その中でいつからか「自分じゃないと出来ないことって何だろう」と考えるようになって、独立しようと決めてそのビストロを卒業しました。ビストロ時代から高知の地元愛を語っていたら、ご縁があって高知県の観光特使をするようにもなっていて、「大好きな地元を伝えていく仕事、これは天職かもしれない!大好きな高知にたくさんの人を連れて行って魅力を体験してもらおう!」と思って、旅行業の勉強もしながら友人とツアーを立ち上げました。友人考案の「イワモトラベル」って屋号もつけて、お客さんと一緒に高知に行きました。お客さんも楽しんでくれたし、高知の人もすごく歓迎してくれたのに、なぜかわたしは「これじゃないかも」って思っちゃったんです。わたしはもともと遅刻魔で、時間通りに集まれない。それからツアー中も「ここも見せたい、あそこも行かなきゃ」ってどんどん追加しちゃう性格なので、全然予定通りに回れない。そんなツアコンいませんよね。「これじゃイワモトラブルだよー」なんて笑われて、それはそれで大盛り上がりだったんですけど。だからツアーは何度かやっただけになり、その後高知の食材を使ったイベントをゲリラのようにやる機会があって、それでピンときたんです。高知のレモンでリモンチェッロを作り、「土曜日のリモンサワー」という屋号で不定期開催して、お客さんが集まってくれて、お店でみんなで飲んでワイワイ話してる。わたしが作った高知の料理やお酒でみんな楽しんでくれる状況にアドレナリンが止まらなくて、自分がやりたいことはやっぱりこれなんだ!やりたいことは旅行会社の免許をとることじゃなかった。やっぱりお店にあったんだ、って気付きました。
そうやって、じゃあやっぱり飲食だ!と決めた時に、しらすだ!って思ったんです。カワクボファクトリーさんのしらすは、ほんっとうにおいしいので銀座のお店にいる頃から東京での営業代行というか、広めて回っていました。飲食をやろうとあらためて決めた時に「そうか、しらすか、、、しらすの、、、、専門店???!」みたいにそこでつながりました。ツアーをしたことやイベントでいろいろな食を扱ったこと、ぐるぐるーっと1周じゃなく2周くらい回ってしらすにたどり着きました。
そして2019年に、まずは週末2日だけ、「土佐しらす食堂二万匹」をはじめました。ありがたいことに人がそれはそれはたーくさん来てくれたんです。
もちろんその頃からメニューは全部しらすづくし。しらすとたらこのアヒージョや禁断のしらすバター丼、出汁巻きしらすは当時から人気のメニューです。それから、しらすだけじゃなく、旬のお野菜やお魚を高知から送ってもらっていました。メヒカリや虎杖(いたどり)など、高知の独特の食材にハマるお客さんが続出してくれて、今もその料理を定期的に食べにきてくれる人が結構いらっしゃいます。高知の食材のおいしさをみなさんの舌に着々と刷り込んでいって、高知を好きになってくれる方が増えてきてやりがいバクハツです。
そしてそろそろきちんとお店を出そう、そう思って今の六本木に決めて、2020年の1月にあらためて開業しました。でも2月くらいから徐々にCOVID-19の足音が聞こえてきていたので、実質ほとんどまともに営業できていないので、売り上げも実績も、このお店はまだすごくアピールできるところがないなぁと思っているんです。その中で常連さんが多いのがこのお店の自慢できるところです。週1回は来てくれる方は珍しくなくて、私もその方たちが来てくれるのがもう習慣というかお店のいつもの光景、みたいに感じていて、気付くと「あれ?今週来てくれていないな、なにかあったのかな?」って心配になってしまう方もいらっしゃいます。
そして、本当に不思議なことに、お客さん同士が仲良くなることが多いのがこの店の嬉しいところです。どうしてかなと思っていたら、お客さんがあるとき「やっぱリサリサがいるとこうなるんだよね」と言ってくれたんです。この一言は嬉しかったなー。「お客さんみんなが隣の人のことを信用してる、ここに来てくれる人に悪い人はいない、っていう空気がみんなの中にあるよね」って。それ正解!と思いながら嬉しくてニヤニヤが止まらず聞いてました。この店は別に敷居も高くないし、一見さんお断りでもないのに、なぜか似たような人たちが多いんです。人懐っこくて話しやすい人が集まってくる。しらすって群れるから?みんな群れに来る??なんて思うこともあります。
そして普段はあんまり言わないんですけど、店のカウンターに立っているのと同じだと思ってちょっと好きに書いてしまうと、私やスタッフが作るゆるーい空気も、お店らしさの一部かなぁって思います。ずっと一緒に店に立っている田村とわたしのやりとりや、細かいところは気にせず楽しもうっていう気持ちが店の中にも染み出しているのかもしれません。
それから、高知って人も食べ物も大らかなので、癒されるのかもしれないし、嫌なことあっても「お酒飲んで忘れようぜー!」みたいな気楽なところもいいのかも。ある人が、高知は日本のバスクだと言っていて、わたしもそれをみなさんにお伝えしています。バスクはスペインの北の方で、海も山も川も全部あって、食材がおいしいくって食のレベルがめちゃくちゃ高い。そして人が優しくてみんなおいしいものが大好き。ほら、高知と同じでしょ。ちなみに田村は青森出身なんですけど、彼女もいつのまにか高知の食や、お店に来てくれる高知の人たちの人柄と魅力が染み付いてしまって、もし今後移住するなら高知だって言ってます。
高知はおいしいものがたくさんあって素晴らしい場所です。それに一番気付いていないのが実は高知の人たちなのかも、と店をはじめてから思うようになりました。だから、わたしがしらすと高知の素晴らしさをもっともっと広めていくぞーと思っています。やりたいことたくさん、伝えたいことたくさん、店もこのオンラインストアも、これからどんどん進化させていこうと、やる気二万匹越え!でがんばります。
これからも土佐しらす食堂二万匹をどうぞよろしくお願いしらす。 (二万文字)
土佐しらす食堂二万匹
店主 岩本梨沙
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